看護師になるためには、所定の学校にて所定の教育を受け国家資格に合格し看護師資格を取得する必要があります。その所定の学校は現在、5つのパターンがあります。では在籍した学校によって、就職した後なにか違いが出てくるのでしょうか?特に収入面ではどの程度の差があるのか気になる方も多いでしょう。

今回はその中でも進学する人の割合が高い大学と専門学校を比較し、就職後にどんな違いが出てくるのかを解説します。

看護師の大卒と専門卒の割合

まずは、大学や専門学校を卒業して看護師になった人の割合は、それぞれどのくらいなのかをご紹介します。
ここ10年で、看護職の教育を行う学校(看護師等学校養成所)の数は大きく変わってきています。新たに入ってくる看護師の方の出身校の割合が徐々に変わってきていると実感している現役看護師の方もいるかもしれません。それでは見ていきましょう。

看護師になるために進学できる学校の種類

看護師等学校養成所にはどのような種類があるのかを簡単におさらいします。

看護師になるためには、3年以上の教育を受ける必要があるため、最短でも3年課程の学校に進学することになります。ただし准看護師の方が看護師になるためには、2年課程の学校に入ることで看護師国家試験の受験資格を得ることができます。


高等学校卒業
看護大学(4年間)
看護短期大学(3年間)
看護専門学校(3年間)
中学校卒業5年一貫看護師養成課程校
出典:日本看護協会

ここ10年間の学校数の変遷

下記の表は、 各年に看護師等学校養成所に入学した人の数をまとめたものです。この中で一番注目していただきたいのが、大学における入学者数の推移です。

年度看護
3年課程
大学短大
3年課程
一貫
教育校
短大
2年課程
合計
201025,79417,0852,3523,94440049,575
201125,83917,4572,3974,09335550,141
201226,02918,5692,2024,14129851,239
201326,59019,3762,0224,27631352,577
201426,76721,2231,6684,20329754,158
201527,59522,5121,7654,10925856,239
201627,69423,1061,5754,02027656,671
201728,43424,0071,3884,01720958,055
201827,96325,0481,4724,00528258,770
201927,19725,6191,2713,73822358,048
202027,06425,8151,2013,84220158,123
出典:看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査

看護師等学校養成所全体の入学者数を見ると、10年前と比較すると約1万人増加していますが、ここ数年は減少気味となっています。しかし大学の入学者数に関しては、他の学校の入学者数が大きく変化していない中、10年前と比べかなり増えていることが分かります。これは、大学における看護学科の数が増えたことによるものです。大学の看護学科の数はここ10年で100校近く増えています(看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査より )。看護師不足が叫ばれていますが、少子化が進む中入学者数はどのように変遷していくのか気になるところです。

看護師の初任給はどのくらい?

それでは本記事の本題である、大卒と専門学校(3年課程)卒では収入はどのくらいの違いがあるのかを設置主体、都道府県、病床規模別にみていきます。

看護師の初任給-設置主体別-

設置主体平均税込給与額
(3年課程)
平均税込給与額
(大卒)
差額
(大卒-3年課程)
国立260,247271,48711,240
公立261,296271,93010,634
日本赤十字社272,296282,66210,366
済生会257,777269,01011,233
厚生連243,431258,18114,750
その他公的医療機関251,142258,2427,100
社会保険関係団体271,068285,73614,668
公益法人258,872266,3907,518
私立学校法人274,385283,5239,138
医療法人262,169268,9586,789
社会福祉法人270,894277,5846,690
医療生協254,240262,0317,791
会社261,471267,3745,093
その他の法人261,895267,8175,922
個人291,078296,6215,543
出典:2020年病院看護実態調査報告書

大卒と専門卒では初任給の差が設置主体によって5,000~15,000円程度あることがわかります。また、法人系の方が差が少ない傾向にあります。

看護師の初任給(都道府県別)

都道府県平均税込給与
(3年課程)
平均税込給与
(大卒)
差額
(大卒-3年課程)
北海道257,647264,2116,564
青森県241,804250,2668,462
岩手県244,325255,26810,943
宮城県255,717264,6708,953
秋田県233,993242,1888,195
山形県243,582254,80411,222
福島県250,970262,90311,933
茨城県260,441271,46111,020
栃木県264,194268,9524,758
群馬県261,634268,2396,605
埼玉県274,402282,2407,838
千葉県289,166296,5687,402
東京都285,277291,9036,626
神奈川県281,207287,5296,322
新潟県254,610261,5176,907
富山県252,258263,77111,513
石川県257,439266,0468,607
福井県257,729265,7388,009
山梨県259,941265,9986,057
長野県255,430264,7189,288
岐阜県266,919270,5083,589
静岡県275,591285,5349,943
愛知県274,589282,4487,859
三重県259,289266,7727,483
滋賀県267,671276,4598,788
京都府261,304268,5827,278
大阪府281,765289,2437,478
兵庫県273,444280,5037,059
奈良県258,229256,778△1,451
和歌山県247,481258,11210,631
鳥取県260,083271,10010,017
島根県258,630269,52010,890
岡山県248,641257,1968,555
広島県251,430260,4389,008
山口県252,023263,41811,395
徳島県254,955263,0908,135
香川県245,625250,0974,472
愛媛県233,505241,3527,847
高知県244,882255,70310,821
福岡県250,912257,8136,901
佐賀県247,619255,1347,515
長崎県247,201253,0465,845
熊本県239,960246,5296,569
大分県255,615265,3329,717
宮崎県225,664234,0968,432
鹿児島県231,640238,7367,096
沖縄県251,122258,0576,935
出典:2020年病院看護実態調査報告書

給与額に最も差が大きいのは福島県、最も差が小さいのが奈良県となりました。奈良県は専門卒の方が初任給が高いと出ています。こちらも都道府県によって差がバラバラで傾向らしい傾向は見当たりませんが、強いて言えば地方の方が若干差が大きい傾向にあるようにみえます。

看護師の看護師の初任給(病床規模別)

病床規模平均税込給与
(3年課程)
平均税込給与
(大卒)
差額
99床以下258,436266,5768,140
100~199床261,138268,5097,371
200~299床262,644270,0847,440
300~399床267,104275,6798,575
400~499床263,794272,1598,365
500床以上269,657278,9479,290
出典:2020年病院看護実態調査報告書

こちらはどの病床規模の病院においても、専門卒と大卒の初任給の差は同じくらいだとわかります。病床規模が大きいから初任給額の差が大きい(小さい)、規模が小さいから初任給額の差が小さい(大きい)ということはないと言えそうです。

大卒と専門卒の初任給の差は数千円から15,000円程度

これまで見てきた表から、大卒と専門卒で初任給の差は最大でも15,000円程度だということがわかりました。単純計算すると1年で18万円となりますが、専門卒の方は1年早く働き出しているため、専門卒の方が不利だとも一概にはいえません。2年目3年目以降の給与額の上がり方なども考慮して考える必要があります。

大卒と専門卒は結局どっちが有利?

これまで、入学者数と初任給という観点から、看護師における大卒と専門卒の違いについて解説してきました。では結局、大卒と専門卒を比較した場合にどちらの方が有利なのでしょうか?給与面とスキル面で比較してみます。

給与面

給与に関しては既にご紹介した通り、初任給は大卒のほうが高くなるため、初任給だけ考えれば大卒の方が有利といえます。仮に同じ病院で管理職などにも就かずにずっと働き続けた場合には、その後の給与額も大卒の方が高いままかもしれません。しかし、そうでない限りこの差はずっと続くわけではありません。多くの看護師の方は少なくとも1回は転職を経験をするからです。給与額を左右する大きな要素は、ざっくり言うと仕事ができるかどうかです。そして転職をするときに重視されるのは、以前の病院でどんな業務を経験してきたかです。学歴が考慮されるのもゼロではないですが、基本的には転職したらすぐにその病院に貢献してくれるかということが重要なため、転職するまでに培ってきたスキルや経験を元に給与額が決められます。まとめますと、転職をすれば基本的に大卒か専門卒という要素は給与額を決めるにあたって重要ではなくなるということです。

スキル面

それではスキル面でどちらが有利かということはあるのでしょうか?これは最初の段階においては専門卒の方の方が1年早く働いている分、実務経験は多くなります。また、大学に比べて専門学校の方が実習の期間が長いです。このため、実務的な部分から考えると専門卒の方が有利といえます。しかし、看護師のみなさんも実際に感じていると思いますがこの差はすぐになくなっていきます。スキルの成長スピードや業務における優秀さなどは人に依るため、学歴によって決めつけることはできません。

以上から、給与面やスキル面において、大卒と専門卒どちらが有利ということは基本的にありません。結局は働きだしてからの自分次第ということです。これは看護師であるみなさんが一番実感しているかと思います。

管理職になるためには大卒がマスト?

看護師の給与やスキルは、大卒か専門卒かによって最初こそ差がありますが、数年すれば関係がなくなることがわかりました。では看護師として上の立場に行きたい場合はどうでしょうか?看護師長や看護部長、さらには副院長まで昇りつめたいと考えている方もいると思います。そのためには学歴の観点から考えた場合に何がベストなのかを解説していきます。

病院によっては有利になることも

結論からいうと、どんな学校を卒業しても管理職になることは可能です。看護師として働く中でどんどん役割を担っていったり、スキルアップのために資格を取得するなどしていくことで、その病院内での自分の価値を高めていけば昇格していくでしょう。しかし、管理職を大卒の人ばかりで固めている病院も稀にあります。大卒以外の方がそういった病院で働いている場合、出世するのは中々難しいため転職を視野に入れたほうがいいかもしれません。

管理職に絶対なりたければ大学院の道も

自分は絶対に出世して上の役職に就きたいなど、管理職になることを叶えたいのであれば、大卒の方が有利だといえます。

それは大学院に行ける可能性があるためです。大学院に行くと管理職になるために有利になる場合があります。それは、大学院では看護の教育を行う能力の育成を行っているからです。

例えば、北里大学大学院看護学研究科の教育課程の編成編成・実施方針を見てみると、

1. 看護学の教育・研究・実践において高度な専門性を有するための基盤となる共通科目の配置

2. 各分野における専門看護師に必要な能力を育成するための専門科目の配置

3. 各分野における教育・研究を行なう基礎的能力を育成するための専門科目の配置

とあります。管理職に就くと、その病院の看護師の方たちの指導・教育を担い、また病院という組織のマネジメントにも関わることがあります。大学院では、それらの能力を身につけるための教育を受けることができます。病院側の立場で考えると、大学院卒の方もしくは大卒でこれから大学院に進学する可能性のある人を管理職にしたくなるはずです。以上の理由から、管理職になりたいのであれば大卒の方が有利であることが多いです。

さらに管理職になるために有効な手段である、資格を取ることも関係してきます。

まずメジャーな資格として広く知られているのは、認定看護師です。こちらは通算5年以上の実務研修の後に認定看護師教育機関を修了したのち、認定審査を経て得ることができる資格です。現在2万人ほどが登録しています。

さらに難易度の高い資格として、専門看護師があります。認定看護師は看護師であれが学歴問わず取得することができますが、専門看護師に関しては大学院にて所定の単位を取得していなければ、受験資格を得ることができません。管理職に就くために専門看護師になる必要はもちろんありませんが、専門看護師になりたいと思った時に、大卒以外の方は学士を取得するところから始めなければならないことを考えると、ハードルが高いことは確かです。

以上の理由から、管理職に就くことを考えると大卒の方が少しばかり有利になると言えます。ただ、これは病院であったり、その人の能力によるところが大きいため、大卒でないからといってあまり気にする必要はありません。卒業した学校に関係なく、きちんと努力をすれば管理職に就くことが可能です。

大卒と専門卒で待遇が違いすぎると感じたら

本記事では、卒業した看護学校、特に大学と専門学校で給与面やスキル面でどのような違いがあるのかをご紹介し、最後に管理職に就くためには大卒の方が有利であると解説してきました。そして、専門卒でも大卒でも最終的にはその人の仕事の頑張り次第による部分が大きいとお伝えしました。

もし今看護師の方で、仕事も熱心に取り組み、資格を取得するなど努力をしたのに

「給料が中々上がらない」

「年齢的にも実力的にも役職に就いてもおかしくないのに、正当に評価されていない」

と感じている方は、まずはその病院の管理職の方の学歴を見てみると分かることがあるかもしれません。例えば全員が大卒であったり、同じ学校出身者ばかりであった場合は転職を検討したほうがよいです。

どれだけ給与がもらえるか、管理職に就けるかという問題は、大きくいうと働く本人と職場である病院の2つの要素しかありません。他の病院に転職するだけで給与が上がったり、管理職に近づけたりすることはあるため、まずは他の病院の状況を調べてみることをおすすめします。

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